このままひきこもりだと、将来は?進路は?親として大きな心配事です。やる気を失い、人とも会えない状態では、この先が心配になるのが親心です。しかし実は親の向き合い方次第で、ひきこもり中は子供の良さを見直し、子供が生きる力を根本からつけ直す大きなチャンスとなります。親ができることは、日々良さを探して短く伝えていくこと。子供の判断や気づきに大いにうなづき、点数には表れない子供本来の良さに喜ぶこと。隠れていた本来の子供の強さが出てくるのです。
たまには非日常の旅に出て、力を探すことも一つの手段です。娘が引きこもり中、ひどい対人恐怖症と自分の未来に自信をもてない娘の進路を考えるために、思い切って二人で行く短い旅行を思いつきました。旅という非日常感性を磨く、将来の道を探る旅でした。それをきっかけに、娘は大学からマーケティングという道へ進みました。
進路を考える旅へ
子供の強みを発見する 【観察力】
旅は日常とは違う脳を使います。この旅の目的は、普段では分からない娘の良さ、力を探し伝えること、でした。進路に希望が持てない娘に自信をいれるため、進路につながる柱を探そうとアンテナをはりました。
まずはオランダ。初めての新しい街で、娘は現地の人のファッション、革靴、鞄、センスのいい人の特徴を話し始めました。バスに乗れば、「あの革靴素敵!」「あの人、上から下まで全身かっこよく決めてる!」などと目に入るものを片っ端からあげていきました。ヨーロッパは上質の革製品があふれ、オランダの人々は背も高く、黒を基調にしたシックな洋服と上質の革製品を身にまとい、美しい街並みをバックに、そんなファッションがとても素敵に見えたのでしょう。お店に入ればパッと素敵な商品を見つけては、手に取り、商品を丁寧にチェックし始めました。死んでいた目が生き生きとよみがえり、てきぱきと動き始めました。前から観察力があるとは思っていましたが、私が全く気付かない、たくさんの気づき、視点が娘にあると、ハッとしたのです。
イギリスでは、こんな鞄が欲しいとスケッチしていた鞄を店頭で見つけました。内側を赤いタータンチェックの生地で丁寧に縫製し、上質な革でしっかり作られた、技術の高さが分かる素敵な鞄でした。10年近くたちますが、今もその鞄は輝きを失わず、娘の成長を見守っています。
進路・将来につながる力
前から感じていたのですが、大量に本を読んで暗記し、空欄を埋める学校の試験には娘の力は向きませんが、娘にも得意なことがある。観察力、メキキの力。気づきを掘り下げて話す力。単なる旅行とは違い、娘の力を探す旅なので、私は観察を続けました。人がまとっているモノ、お店に飛び込んで、いいものを探すメキキの力。モノを売ることは世界で共通することです。娘の力を将来に結び付けられないか。私はひらめいて、こう聞きました。
「ねえ、お金持ちになりたいかしら?」お金持ちになりたいかと聞かれて、いやなりたくない、という子供はあまりいないでしょう。意欲がない娘も、「なりたい、なりたい」そう答えました。当たり前です。
「やっぱり、観察力があるし、メキキの力がある。マーケティングなんかどうかしら。商品を売る力があれば、どこでも生きていけると思うな」苦し紛れにそんなことを思いつきました。手に取る商品の先に、いろんな企業のマーケティングがある。そんなことを旅先で話しました。
「うん、じゃあそれにしてみる」まだ自信が十分たまっていない娘も、ちょっと気を取り直してそう言いました。ただ、対人恐怖症のトラウマは深く、旅先の駅のプラットフォームで、「人との距離感が分からない」そう言って泣き出した娘を見て、心の傷の深さに呆然としました。これじゃあ、先は長い。。。本当にこれから先、やっていけるのか。絶望感が続きました。
それでも、2年間のうちにためた自信の水は、ミリ単位でたまっていたのでしょう。マーケティング専攻を選び、なんとか地元の大学に提出する資料を整え、無事入学させてもらえました。「人との距離感が分からない」と泣いて取り乱し、私を呆然とさせていた娘も、自分を奮い立たせ、勇気を振り絞ってキャンパスに飛び込んでいきました。
もう一度輝きたい 魂の叫び
もう一度自分を試したい、輝きたい。そんな心の叫びは、とことん地に落ちたからこそ、上に上がりたい大きな反動になりました。まだ心はぐらぐらでも、そこを言葉かけでしっかり支えていけば、行きつ戻りつしながら、もう一度輝きたいと、自分を突き動かす意志が強く出てくるのでしょう。
娘は大学で、ひきこもり中にしていた料理、ダンスの視聴、韓国語の写経などを武器に、コミュニケーションの力に変えていきました。今までのうっ憤をはらすべく、各国から来ている留学生をつなぎ、人からもらった自信でいつのまにかトラウマが消えていきました。好きなコト、得意なコトで人を喜ばせ、自分に自信がつく。そんな好循環が始まりました。
傷つけたのは人、でもそれを癒してくれたのも人でした。一歩を踏み出すには親の言葉かけが大切。でもその一歩を踏み出せれば、自分で小さなチャンスを引き寄せていきます。その小さいチャンスが次のチャンスをよび、自分を支える大きな柱がいくつもたっていきます。
人によって自信のたまり方は様々。心の傷の深さ、性格、原因などみんな違うからです。でも、言葉の威力は同じ。私達親には言葉という武器がある。勇気と覚悟をもって子供と向き合えば、必ず変わります。
あれから約10年。社会人となり、娘は何度も大きなパワハラに泣きました。そのうち処世術も少しずつ身につけ、今の会社では多くの人に声をかけられ、人との出会いを楽しんでいます。
親としてできること。それは、些細なことにみえても子供の力や変化を見逃さない。それを日々伝え続けること。これが子供の新しい世界を切り拓き、それが私達親にも勇気を与えてくれます。
ひきこもり、不登校は大きな試練ですが、親としての視点をちょっと変えるだけで、将来への大きなチャンスに変えられます。お子様の輝く未来はこの先にあるのです。